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東京地方裁判所 昭和33年(タ)130号 判決 1961年8月16日

原告 A

右訴訟代理人弁護士 増淵俊一

被告 B

主文

原告と被告とを離婚する。

原被告間の長女秀子(昭和二七年九月二日生)、二女淳子(昭和二九年五月二八日生)、長男洋一郎(昭和三一年一一月二六日生)の親権者を原告とする。

被告は原告に対し右長男洋一郎を引渡すべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告はその妻なる被告と昭和二六年中に事実上の結婚をし、昭和二七年六月四日婚姻の届出を了し、初め東京都世田谷区北沢二丁目二八〇番地アパートツバサ荘に、昭和三〇年一二月頃からは同区経堂町六五二番地なる原告の実父小島銈三郎方に、於て同棲し、両者の間に昭和二七年九月二日に長女秀子が、昭和二九年五月二八日に二女淳子が、昭和三一年一一月二六日に長男洋一郎が出生した。

二、然るに被告は浪費癖があり、且極度に協調性がない為、同棲開始以来原被告間に喧嘩が絶えず、被告は些細の原因から次の通り原告に対し狂暴な行為をし傷害を蒙らせた。

(1)  昭和三〇年一二月一三日に被告は菓子鉢の蓋で原告の右手甲を強打し、全治二週間を要する打撲傷を負わせた。

(2)  昭和三一年一月一八日に被告は原告の左手指を噛み、且右手甲を爪で掻き、出血する傷害を負わせた。

(3)  同年二月一一日に被告は原告の額、顔、背部、股部等に数本宛爪掻傷を、股部に打撲傷を負わせた。

(4)  同年四月一七日に被告は原告の股に噛傷を、右手に爪掻傷数本を負わせ、之等の傷から出血した。

(5)  同年五月一一日に被告は原告の手、肩、胸に噛傷や爪掻傷を負わせ、之等の傷から出血した。

(6)  同月二〇日に被告は原告の胸、肩に爪掻傷を、右手拇指つけ根に噛傷を負わせ、右噛傷は関節炎を起した。

(7)  同年六月四日に被告は原告の胸咽喉に数ヶ所の爪掻傷を負わせ、之等の傷から出血した。

(8)  昭和三二年三月二五日に被告は原告の手甲及び股に噛傷を、顔面に爪掻傷を負わせ、之等の傷から出血した。

而して被告は前記の通り原被告が原告の実父方に移り両親と同居するようになつた後も原告とだけでなく、原告の両親その他の親族と折合わないので、やむなく昭和三二年一一月に原被告は右両親方を出て東京都世田谷区北沢一丁目一一三六番地東平荘に移り住んだが、被告は原告が集金保管していた原告の勤務する会社の金員を原告に無断で引出して消費したり、子供の面前で原告に掴みかかる等原告の向上意欲を阻喪させるような行為を続けたので、原告は被告との共同生活に堪えずして、同年一二月頃単身東京都品川区南品川五丁目四八番地に移り住み、被告と別居するに至つたが、別居後も被告に生活費として毎月一万五〇〇〇円宛支給して来た。

又原告は勤務先の関係で出張し不在となることが多いところ、被告は昭和二十六七年頃原告の不在中松永某、池田恆雄、青木某、白浜某、沖某等の男と情交関係を結び、原告と別居後は原告から右の通り生活費の支給を受けていながら昭和三三年春頃から東京都新宿区の「ふたば」なるキヤバレーに出かけて昼も夜も他の男と一しよにいるという生活を続けている。

三、右二に掲げた事態は原告にとつて被告との婚姻を継続し難い重大な事由であるから、原告は本訴に於て右事由に基き被告との離婚を求め、且右事態に鑑み前記原被告間の子供に対する親権は原告に於て行使するのが適当であり、被告が之に当ることは不適当であるから右親権者を原告とする旨の裁判を求め尚親権行使の必要上現に被告の許にある長男洋一郎の引渡を求める。

と述べ、原告の素行に関する後記の被告主張事実を否認し、立証として甲第一乃至第四号証を提出し、証人小島銈三郎、鈴木信子の各証言及び原告本人訊問の結果を援用した。

被告は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告の請求原因一の事実を認める。

同二の事実は原告がその主張通り被告と別居したこと及び被告が原告から昭和三三年一一月分までの原告主張通りの生活費の支給を受けたことは認めるけれども、その余の事実を否認する。

同三の事実は否認する。

原被告間に喧嘩が絶えない原因の一は、原告が女道楽をすることであつて、右女道楽により原告は性病にかかりその治療の為相当額の薬代を支出させられ、被告も数度右病気を移され苦しめられたと述べ、甲第一、二、三号証の成立を認めた。

理由

公文書なるが故に真正に成立したものと認めるべき甲第一号証、証人小島銈三郎の証言、原告本人訊問の結果及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、原告の請求原因一の事実が認められる。

次に右小島銈三郎の証言及び原告本人訊問の結果並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告は原告と結婚後昭和二六年中に結婚前被告がキヤバレーの女給をしていた当時知合つた松永某なる男を原告の不在中に原告に無断で当時の原被告の居住していたアパートの居室に宿泊させていたことがあり、原告がこれを知つて右松永との交際を絶つよう注意を与えたに拘らず、その後昭和二七年中に亘つて原告に秘して他の場所で松永と会合していたことがあり、又右アパートに居住中四、五回原告が集金保管中の原告の勤務先なる会社の金員の内から二〇〇〇円乃至三〇〇〇円宛抜取り領得したことがあり、又原被告同棲中を通じて家庭に於て妻として行うべき日常の食事の世話、洗濯、掃除等の仕事を十分にせず、家計上浪費が多く、以上の事態が原因となつて原被告間には喧嘩が絶えず、その場合に屡々被告の方から原告に対し爪で引掻いたり、原告の身体に噛付いたり、時として刃物を振つたりする暴行に出て、原告がその請求原因二(1)乃至(8)として掲げた通り暴行による傷害を与えたこと、尚原被告が前認定の通り原告の両親と同居していたときには喧嘩の仲裁に入る父に対して食つてかかつたり、両親が被告の過を注意すれば却つて反抗的言動を行う等の所行に出た為両親とも不和となり、やむなく昭和三二年一一月三日に両親方から出て世田谷区下北沢一丁目のアパートに移り住んだが、同所に於ける被告の原告に対する所行もその以前と同様であつた為原告はやむなく単身同年一二月中旬品川区南品川五丁目四八番地に移り住み、以後原被告別居して現在に至つていること、原告は昭和三四年一〇月頃被告方にいた長女及び二女を原告の許に引取つたが、その当時被告はすでに就学時期に達していた子を就学もさせず自宅に置いた侭キヤバレーに勤めに出ていたこと、等の事実が認められ、被告は原被告の喧嘩の絶えない原因の一が原告の女道楽にある旨抗争するけれども、本件にあらわれたすべての資料によつても叙上の認定を覆して右被告主張事実を肯認するに足りない。

右認定の事実に徴すれば右認定の被告の所行の結果原被告の婚姻は全く破綻に帰しているものと言うべく、このような事態は原告にとり民法第七七〇条第一項第五号にいわゆる婚姻を継続し難い重大な事由ある場合と解すべきであるから、これを理由とする本訴離婚の請求は正当なるものとして認容しなければならない。

又以上認定の事実に徴すれば右離婚の場合に原被告間の未成年の前記三人の子に対する親権は原告に行使させるのが適当であり、之を被告に行使させることは不適当と認められるから、右親権者を原告に指定すべきものとし、尚右の内長男洋一郎が現に被告の許で養育されつつあることは本件口頭弁論の全趣旨に照らし認め得るところ、同人に対する原告の右親権の行使にはその身柄を原告の許に置く必要あるものと解せられるから、本訴請求中被告に対し右洋一郎の引渡を求める部分も正当なるものとしなければならない。

よつて民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 高井常太郎)

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